かけがえのない信頼関係
患者と信頼関係を築いた、感動する看護師のエピソードを紹介します。ここで語るのは、ある看護師長が体験した実際のエピソードです。看護師長としての仕事は、様々なクレーム対応やトラブルの仲介役というイメージが強いですが、実際はそれほどネガティブな現場ではなかったようです。
では、看護師長として働く職場で感動する場面とは、どのような状況だったのでしょうか。看護師長の立場だからこそ感じ取ることのできた、女性がん患者との感動のエピソードです。
彼女の存在
寒い冬の日に、60代の女性がある看護師長が勤める施設に入院してきました。彼女は余命3か月の乳がん患者で、親族も離れて暮らし、寂しさや抗がん剤の影響からか、とても大人しい方でした。
彼女は、抗がん剤治療と麻薬による疼痛緩和の副作用からくる痛みなどから、常時ナースコールを鳴らしていました。看護師たちは背中をさすり、足腰を温めるケアを行なう毎日でしたが、彼女の寂しさや不安は取り除けませんでした。孤独である訴えが看護師たちに伝わり、熱心なケアを行なっていました。しかし、頻繁に起こるナースコールによって他の業務にも支障がでるようになりました。徐々に彼女に対して看護師たちは、「少し迷惑だな」と感じるようになったのです。
特に夜勤の看護師から看護師長へ、この状況についての相談が増加。看護師たちのモチベーションが下がっている状態に危機感を覚えました。すぐに緊急ミーティングを開き、彼女の思いを共有して看護ケアを行なうことを話し合い、理解を促しました。彼女の不安な気持ちを理解し共有、対応した結果、しばらくするとナースコールの回数は減っていきました。彼女は次第に笑顔を見せてくれて、別人のようになったのです。また看護師たちからの相談も減り、信頼関係の構築に積極的になってきました。コミュニケーションが頻繁に取れるようになると、余命3か月と宣告されていたところ、6か月後のイベントにも元気に参加できました。
しかし突然に別れが訪れ、彼女は永眠。彼女の家族からは、「最後の時間を楽しく過ごさせてもらえて、本当にうれしかった」などの言葉をいただき、一緒に彼女の思いも伝えてもらいました。
彼女が遺してくれたもの
彼女は、通常業務に追われる看護師たちの意識を変える、1つのきっかけになりました。彼女が入院して起きた出来事には、それぞれに意味があり、深く考えさせられました。看護師にとっては対応する患者のひとりですが、患者にとって看護師は特別な存在なのです。彼女との日々は貴重な経験で、心の緩和ケアを徹底することで、安らかな入院生活になって欲しいと切に願う事例となりました。